top of page
検索
  • 執筆者の写真斎藤 徹

適応障害 (「仙台経済界」2004年 9-10月号掲載)

 皇太子妃雅子さまが「適応障害」であることが7月30日、宮内庁より公表されました。

 翌31日の日経新聞は、その主因を「元外交官としての経験を生かせなかったこと」、「世継ぎ問題のプレッシャー」と報じています。

 これに先だってイギリスのガーディアン誌、7月第1週号も、雅子さまの不調を取り上げており、偶然にも同じ要因を指摘しています。その記事から関連した部分を拾い上げてみました。

「ハーバード大学を卒業し、ソフトボールと旅行を好み、ディベイトに長けた雅子さまは、外交や政治に有望な存在として期待されていた」

「皇太子妃となった雅子さまは皇族の生活様式を身につけ、数百にも及ぶ神道のしきたりを学ばねばならない。ただし、常に第1の任務は男子を生むことであった」

「日本の皇族系図においては、過去125人の統治者のうち皇后が8人いた。その後継者となれたのは彼女達の子供ではなく、皇后最近親の男性であった。皇室は1889年、女性継承を全面禁止している」

 雅子さまが現在の状況に至った経過が、その人柄やわが国の史実に基づき、国内の報道と一致した視点で説明されています。

 しかし、問題の「経験を生かした公務」、「愛子さまの世継ぎ」に関して、現実化への確証はまだ得られていないのが実状です。

 「適応障害」とは、ストレスが原因で環境になじめず、さまざまな心の不調が現れる疾患をいいます。抑うつ、または不安を伴うものなどいくつかのタイプに分けられます。環境調整だけで改善することがありますが、問題解決に向けて心理面から援助する精神療法や、必要であれば薬物を併用することも少なくありません。

 人間が生きていく以上、周囲との関わりは避けられないものであり、私達の日常はその絶え間ない連続です。環境と個人のあり方を反映する「適応障害」はそれだけ多様な局面を学んでいます。単なる疾患の枠組みの中だけでは、おさまりきれないこともあります。個人の努力が求められる一方で環境の調整が容易でない場合がその例です。組織や集団の中で一個人の限界を見るとき、人間の生き方への「共感」を覚えます。


「仙台経済界」2004年 9-10月号掲載


閲覧数:55回0件のコメント

最新記事

すべて表示

記憶の中で[青の時](The Excellent Saluki 2022 (Vol.13) 東京南サルーキズファミリークラブ・東京北サルーキクラブ合同会報掲載文に加筆)

リリーと散歩に河原へ出た。初夏の夕暮れ時、空はまだ高く、木々の緑からは鳥のさえずりが聞こえていた。街の中を蛇行する川に沿って、河原は緩やかに続いている。広い流れがさざめく向こう岸は地層面があらわな切り立った崖になっており、その上に並ぶ家々は精密な模型のようだ。中にはあかりを灯している部屋もあり、窓越しの光源がかすかな星のように見え隠れしている。河原には私たちの他には誰もいない。今がチャンスとばかり

リリー(仙台市医師会報 2020年3月号 No.667 掲載)

私はリリーの頭部を両手で包み、ひたすら頬ずりしていた。鼻筋から後頭部へ、耳から口元へと、少しでも不安を取り除いてやりたい一心で。向かい合ってリリーを支えている看護婦さんも、横で注射をしている獣医さんの存在も気にならない。胸の芯からこみ上げてくるおえつを抑えるので精一杯だ。 突然、診察台の上に立っていたリリーの腰が崩れ落ち、背中、上体も続いた。看護婦さんはリリーをそっと横にさせた。 獣医さんは、リリ

Frame of mind 2 体内時計(シリウス・一番町[シリウスプレス]5th Anniversary 掲載)

私たちは日中の活動と夜の睡眠を繰り返しながら毎日を送っています。この活動と睡眠のリズムは両目の奥に位置する視交叉上核(しこうさじょうかく)という神経細胞群で作られます。この細胞群がいわゆる体内時計です。 体内時計は光の受容器である目とつながっており、太陽光を浴びた時刻に応じて変化します。早朝に朝日を浴びると夜に眠くなる時間が早くなり、夜に強い光を浴びるとまだ昼が続いていると勘違いして遅くまで眠れな

記事: Blog2_Post
bottom of page