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職場のメンタルヘルス (「仙台経済界」2000年 11-12月号掲載)

  • 執筆者の写真: 斎藤 徹
    斎藤 徹
  • 2020年8月15日
  • 読了時間: 2分

 去る10月3日の朝日新聞に、川崎製鉄の過労自殺訴訟の結果が報道されました。前日の2日、広島高裁岡山支部での控訴審で会社側が全面責任を認め、遺族との和解が成立したようです。  これは、当時41歳になる社員が1991年1月に掛長に昇進して以来、所定労働時間の約2・3倍にのぼる勤務が続いた末、うつ病になって自殺。遺族が会社側に損害賠償を求めていた訴訟です。  当初会社側は、業務内容とうつ病および自殺の因果関係を否定していましたが、最終的に自らの責任を認めました。この会社側の態度は、「企業が社員の心身の健康に責任を負わねばならない」という、「電通」の最高裁の判断にならったといわれれています。  広告代理店「電通」の過労自殺訴訟は、今年6月に決着したばかりで記憶に新しいかもしれません。入社2年目の当時24歳であった息子の自殺をめぐり、両親が「長時間労働によるうつ病のため」として、電通に損害賠償を求めた訴訟です。会社側はその社員の性格傾向を主な理由に、一審の賠償額を減額するよう東京高裁の二審で主張しました。ところが最高裁はこれを受け入れず、「労働者の性格は多様であり、通常予想される範囲を外れるものでない限り、使用者は発生する事態を予想しなければならない」との見解を出し、二審を破棄したのです。審理を差し戻された東京高裁は職権で和解を勧告。結果的に遺族側が全面勝利を得ました。  この最高裁判決で注目すべきは次の点です。会社側が元社員の体調の異変に気付きながら口頭の指導に終わり、具体的措置を伴なっていなかったと指摘したこと。つまり、疲れているようだから今日は早めに退社するよう促すだけでは十分ではなく、実際に帰さなければならないということです。先日受けた産業医の講習でもこの点が大きく取り上げられ、それでも仕事を続けようとする極端な場合には、雇用側の対応として、「出来るだけの説得を試みたが本人の意思によりやむをえなかった旨」を書面に残しておく必要があると強調していました。  1980年代に浮上した「過労死」問題以来、自己管理責任と過重な労働負荷に対する事業者責任との関係をどう判断するかが争点でした。特に精神科にかかわるトラブルは性格的なものとされ、おざなりにされてきた感がします。今回の川崎製鉄の敗訴は、電通の最高裁の判断をより現実的にし、職場のメンタルヘルスが決して個人だけでなされるものではないことを再認識させたといえます。


「仙台経済界」2000年 11-12月号掲載

 
 
 

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