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続-性差 (「仙台経済界」2003年 9-10月号掲載)

  • 執筆者の写真: 斎藤 徹
    斎藤 徹
  • 2020年9月5日
  • 読了時間: 2分

 性差については英国でも話題が尽きないようです。先回紹介したプロスペクトの記事の著者、シモン・バロンコーヘンの本が6月末の週刊誌ガーディアンの書評に取り上げられていました。「本質的な違い」と題するその本は、太古に遡って男女の相違を説明しています。

 男女の脳は本来、異なるものとするのが同氏の考えです。一般に男性は組織的な思考パターンをとり、物事の仕組やそれを支配する法則に注意が向けられます。女性は共感的で、気持ちを伝え合い、互いに理解しようとする傾向が強いそうです。子供を観察すると、男の子はおもちゃの自動車や戦争ごっこを好み、女の子はままごとに惹かれ仲良しを作ります。思春期には、男子は口数が減り、話をしても口篭もることが多く、女子はおしゃべりとともに社交性を増します。その後、女性の場合、言葉を巧みに使いこなしては人間関係の話題が尽きません。男性はスポーツや仕事の情報交換が興味の対象です。

 これほどの差異が男女間に生じた理由について、自然淘汰による適応の過程が引用されています。かつて男性は道具を作り、活用できなければなりませんでした。生きるために彼らは道具の工夫や技術の向上に執着せざるを得ません。狩りに出ると獲物を狙い、茂みの中で何時間もじっとしていました。一方女性は、生まれた土地を離れ、夫の共同体に入ることになります。子供には目を見つめて状況を察し、声をかけ、そこから会話力を発達させ周囲と交わる術を身につけていきました。

 こうして我々の脳には、時を重ねて築き上げられてきた男女の特性が息づいています。もちろん、すべての人間がそれぞれの典型にあてはまるわけではありません。機械いじりの好きな女性がいれば、会話上手な男性もいます。いずれにせよ、「コミュニケーションに重きを置く現代では女性脳のパターンが有利」と結論が導かれるようです。「性差の捉え方に波紋を投ずる示唆に富む著」との書評でした。

 バロンコーへンはこの本を書き上げるまで5年以上要したと言います。性差を論ずることは差別を助長させる危険があり、慎重さが求められるためです。しかし今や、論点を正しく把握すべきとの意識が女権主張者達にも広がり、無事出版に至ったと述べていました。

 男女の相違が、根本から見直されようとしています。


「仙台経済界」2003年 9-10月号掲載


 
 
 

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