精神科と心療内科 (「仙台経済界」2000年 1-2月号掲載)
- 斎藤 徹
- 2020年8月15日
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「こころの健康」に注意が向けられつつある昨今、よく尋ねられる質問に「精神科と心療内科の違い」があります。実際、内科的治療が好ましいのに精神科を受診したり、逆に精神科治療を要するにもかかわらず一般内科や心療内科を行き来して、結局は悪化した状態で精神科に運ばれてくる例が少なくありません。 精神科もかつては内科の1分野でした。そもそも近代的な精神医学が始まったのは1793年、フランスの内科医、フィリップ・ピネルが監獄の精神障害者達を鎖から解放したことによるといわれています。当時、罪人と同様に扱われていた精神障害者に医学的治療の必要性をピネルが証明したのでした。それ以来、精神疾患のさまざまな分類がなされ、今日の精神医学の基礎が築かれてきたのです。日本に精神医学が導入されたのは1887年、ドイツからでした。 一方、心療内科は比較的新しい歴史を持っています。一般内科では心臓や胃腸といった身体疾患そのものを対象とするのですが、心療内科では身体疾患を主眼としつつ、こころの問題にも目を向けるのが特徴です。心身両面を診るということから心身医学とも呼ばれます。心身医学は世界的に見れば20世紀以前にまでさかのぼることができ、これが1963年、九州大学に導入されて日本における心療内科の基礎となりました。その名が示すとおり心身症がこの科の専門領域であり、胃・十二指腸潰瘍、偏頭痛、過敏性大腸炎、糖尿病、その他ストレスがかかわる内科的疾患群が含まれます。 それに対して精神科は、どちらかというとこころの問題に焦点が絞られます。不眠症をはじめ、恐怖症や摂食障害など以前には神経症と呼ばれていた群、躁状態やうつ状態が持続する躁うつ病、幻覚や妄想に悩まされる精神分裂病、その他がこの科の専門領域です。これらの疾患はストレスはもちろん、その人の生活歴や性格特性に至るまで種々の要因が絡み合い、気分や行動などの変調として現れ、必ずしも身体の異常を伴うとは限りません。 このように精神科と心療内科は、互いに重複しながら移行しあっているため、それらの間に一線を引いて違いを述べることは難しくなります。ただ、例えば頭痛や下痢が続くなど、身体症状がはっきりしていれば心療内科の治療が適当でしょう。つまり、精神科か心療内科かを選ぶ目安はごく大雑把な見方をすれば、明らかな身体症状が優位に立っているかどうかといえます。いずれにしても、できるだけ適切な科を選ぶことが重要です。
「仙台経済界2000年 1-2月号掲載
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