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広告 (「仙台経済界」2002年 11-12月号掲載)

  • 執筆者の写真: 斎藤 徹
    斎藤 徹
  • 2020年9月5日
  • 読了時間: 2分

 精神衛生が叫ばれて久しくなりますが、心の問題は意外に見過ごされがちです。たとえ気分の不調でも、まず内科や他の科を受診し、最終的に精神科へ紹介されてくる例が少なくありません。実際ほとんどのうつ病患者が一般科で治療を受けており、精神科医が診ているのは1割程度といわれます。形のない全体より、胃腸や血管など、部分としての故障と考える方がまだわかりやすいようです。心の問題は誰にも起こり得るものですが、特別な変化でもない限りそうした意識は忘れられています。

とはいえ現実に目を向けると、失業、仕事量の増大、家族関係の希薄化など、世相は厳しくなるばかりです。日本における自殺死亡者数は1998年以降毎年3万人を下りません。研究の中には、自殺多発要因のひとつに「精神科医療の情報不足」を指摘する報告も見られます。

 こうした状況の中、「うつ病の広告」が新聞とテレビで流されることになりました。これは正しい情報を提供することにより、誤解や偏見を解消し早期治療を促す目的で、ある製薬会社が始めたものです。今年9月9日から12月27日までの間、新聞は全国で、関東・関西のみテレビでも行われます。企業による精神疾患の啓発活動は初めてといえるでしょう。東日本における初日から約20日間の問い合わせは、電話が1万2千件、インターネットへのアクセスが5万件を超えたそうです。去年の静岡と福岡における試験段階では、問い合わせ件数の4倍の人数が医療機関に受診したと聞きました。

 これだけの反響を得た広告は、新聞の方はモノクロとオレンジ2色からなるシンプルなデザインです。男女5人の笑顔の横にそれぞれ「うつ」であった頃の状態が一言ずつ書かかれ、色刷り部分に早期治療を促す説明と問い合わせ先が記されています。テレビでは3人の体験談となっており、いずれも主催した会社名はほとんど目立ちません。

 人間の心はデリケートなもので、特に気持ちが弱くなっている時には、ちょっとした励ましの一言が負担になったり自信を失わせたりします。まして冒頭で述べたように自分の状態に気付かないでいることもあります。今回のうつ病広告は多くの人達に浸透し、必要な情報を広く提供しました。そこにはさりげないボランティア精神を利かせた新しい広告のスタイルが感じられます。


「仙台経済界」2002年 11-12月号掲載


 
 
 

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