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多様化時代 (「仙台経済界」2000年 9-10月号掲載)

  • 執筆者の写真: 斎藤 徹
    斎藤 徹
  • 2020年8月15日
  • 読了時間: 2分

 人間の「こころの発達」は、年齢と正比例する直線状ではなく、段階状であるといわれます。特に思春期にあたる中学、高校時代は、乗り越えなければならない多くの問題をはらんだ悩み多き時期です。さまざまな問題が表面化しつつある中で、この時期は少しずつ変化してきました。  小学生までは、周囲との関わり合いは自分の家庭が中心ですが、中学生になると家庭の外へ友達関係が移っていきます。そこで他の家のこれまでとは違った価値観を知り、それまでのモデルであった自分の家、つまり両親の価値観に疑問を持ちはじめます。会話が少なくなったり、否定的態度をとったり、いわゆる「第二反抗期」とよばれるのがこの時期です。もう親が絶対的な存在ではありません。子供同士の間でも、個として他とぶつかるようになり、牽制や攻撃などが目立ってきます。  高校生としての17歳前後からは、「自己」について考え、「自己同一性」といわれる、自分が何者であるかという疑問に答えを出していかなければなりません。ここで良い自己像が得られないと、いつまでもこの段階にとどまったり、得ても適切なものでないと、社会に出てから問題を残すことになるでしょう。実際、高校や大学を卒業後も定職に就かず、アルバイトを転々とする人達の中には、この段階が長引いているとする見方があります。  とはいえ、「こころの発達段階」は時代とともに変化し、必ずしも「何歳はどの段階」と断言できるものではありません。本来、顔や体つき、勉学の得意な分野や運動能力が人によって差があるように、「こころ」もそれぞれ固有の発達の仕方をします。さらに、情報や物質に恵まれ、核家族化がすすみ、いろいろなけじめがあいまいになった現在、価値観は多様化するばかりです。  このように多様な子供達がほとんどの1日を過ごすところが学校です。もちろん学校は、子供達のこうした変化に対応すべく日々努力を尽くしています。最近よく耳にする「個を大切にする教育」もその一環として考え出されました。ところでこの提唱はうまく機能しているでしょうか。「いじめ」や「登校拒否」、相次ぐ中高生による悲惨な事件など、問題はむしろ複雑化する一方です。  「個を大切に」は「一人ひとりが何をやってもいい」という意味ではありません。「互いの立場を尊重する」という重要な点がいつの間にか忘れられてしまっているようです。「個」とは何かをあらためて見直す時に来ているのではないでしょうか。


「仙台経済界」2000年 9-10月号掲載

 
 
 

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