労働災害と産業医 (「仙台経済界」2001年 1-2月号掲載)
- 斎藤 徹
- 2020年8月15日
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「産業医」とは、労働と健康の両立を図る医師のことをいいます。職場と労働内容をよく理解し、職場巡視を行い、健康診断をはじめ、作業環境やその方法の点検を通じて、必要であれば改善に向けての指導をしなければなりません。労働安全衛生法により、常時50名以上が働く職場では産業医の選任が義務付けられています。 労働災害の歴史は起源が定かでありませんが、記録としては古代エジプト時代のピラミッド建設による災害が最も古いようです。 日本においても既に縄文時代には組織的労働が行われていたといわれています。やがて朝鮮半島から鉄の精錬法がもたらされ、作業で生じる健康上の影響が表面化しました。後に盛んになる水銀や金の鉱山では、中毒や鉱夫の健康障害が急増します。 中世ヨーロッパになると、労働状況や労働者の健康管理に関する記録が論文としてまとめられるようになりました。「産業保健」という考え方が系統的に確立されるようになったのはこの時期からです。 18世紀後半、イギリスで起こった産業革命は100年遅れて日本にもたらされ、幕末から明治にかけての近代化を遂げた諸藩によって産業保健が注目されることになります。しかし、主要産業が盛んになる反面、女工達の労働状況は悲惨の一途をたどり、さらに結核の蔓延も重なる現実は、この分野の歴史に大きな影を落としてしまいました。 戦後、高度成長の時代、多くの職業病や公害が発生します。水俣病、頸肩腕症候群、イタイイタイ病、まだ例はありますが、中でも塵肺問題などは今なお最終的な解決段階に至っていません。 こうした状況で、昭和47年、労働基準法が労働衛生安全法に改正され、産業医制度が施行されました。一般には平成8年から、労働大臣の認める研修を終了した医師が日本医師会の審査によってこの資格を得られることになっています。 ところで、産業医の必要性は本来、契約としての雇用が主流である欧米から発生しました。労働による災害は雇用者が責任を負わねばならず、それを少しでも減らすべく雇用者は災害防止を専門医に委託したのです。 今や日本では「過労死」さらには最近多発している「過労自殺」へと、労働災害の質に少しずつ変化が起こっています。情報化時代をむかえ、それは身体面から精神面の問題へと広がっているのです。 産業医のこれからの役割は、人が安心して就業できるよう、精神面をも含めた総合的な健康と労働との調和を図るところにあるといえます。
「仙台経済界」2001年 1-2月号掲載
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