体内時計と光 (「仙台経済界」2003年 5-6月号掲載)
- 斎藤 徹
- 2020年9月5日
- 読了時間: 2分
今年3月、フランスの製薬会社サノフィ・サンテラボが行った国際睡眠調査によると、対象11カ国の4人に1人が不眠に悩んでいるとの結果が出ました。
また、NHKが5年ごとに行う「国民生活調査」では、年を追って日本人の就眠時刻が遅く、睡眠時間が短くなっていることが報告されました。平均5人に1人、高齢者では3人に1人が睡眠の問題を抱えているそうです。
現在不眠は先進国に共通して見られる健康障害といわれ、具体的な対応策が求められています。
その原因のひとつに生活リズムの乱れが注目されています。生活様式の夜型化にともない、体内時計と光環境の不調和が考えられてきました。
よく、寝る時間を中心にして「早寝」に努める不眠対策が聞かれますが、これは正しくありません。夜の何時に眠くなるかは朝に決まります。通常の生活では、最初に脳が太陽光を感知した時点で「朝」が認識され、それから約15時間後に眠りの態勢ができ始めるとされています。遅くまで明るい光のもとにいると、それだけ睡眠の時間帯が遅れるのは当然でしょう。体内時計のどの時点で光の刺激を受けるかによって睡眠時間帯が決まるのです。
この睡眠と覚醒のリズムを刻む体内時計は、人間では目の奥、脳内中央にある松果体という器官で調整されています。松の実に似た形から名付けられたこの部分は、ホルモンの一種メラトニンを分泌し、このホルモンには体温や血圧を下げて睡眠を誘う作用があることが明らかにされました。
本来メラトニンは体の色素に係わるホルモンでした。トカゲの類では松果体が頭頂部に目のように出ており、光を直接感じることができるようになっています。日中の明るさの中ではメラトニンは影を潜め、周囲が暗くなると体色を濃くさせ、闇夜に溶け込むように働き出すのです。1日のリズムが体内に組み込まれたのは、こうしてはるか昔からでした。
確かに朝一番の光を受けてから眠気が出るまでの約15時間は、ちょうど日の出から日没までの時間に当たります。健康維持に不可欠な快眠を得るためには、起きる時間を規則的にし、朝日を浴びることが重要なポイントのひとつです。
「仙台経済界」2003年 5-6月号掲載

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