五月病 (「仙台経済界」2000年 5-6 月号掲載)
- 斎藤 徹
- 2020年8月15日
- 読了時間: 2分
いよいよ春を迎え、新しい年度が始まりました。入学に就職に、それぞれの方向が定まり、新たな目標へ向かっての出発です。 こうして張り切ってスタートする生活にも1カ月が過ぎ、ちょうど5月の連休の頃になると、多少の疲れを感じることがあるかも知れません。たいていはそれを乗り越えて安定した生活を取り戻すことができるのですが、中には次第に無気力となり、何に対しても興味が湧かず、生きる希望を失ってしまう場合が見られます。 こうした状態に陥ることを、いわゆる「五月病」といいます。病という文字がついていても、これは医学的に認められた診断名ではなく、いつのまにかつけられた俗称のようなものです。 五月病は、受験勉強や就職活動といった大きな負担から解放されてほっと一息ついた時、こころの支えが無くなり、目標であった学生や社会人としての現実に戸惑う一種の不適応状態といえます。学歴偏重が一因とも考えられ、偏差値教育というレールの上をひたすら走ってきて、その目標にたどり着いた時、それまでの方向から放り出され、途方に暮れるのがこの状態というわけです。普通、長くて2カ月くらいなものですが、新しい状況で自らの目標を見つけなければ立ち直ることはできません。 このように五月病は本来、大学の新入生に見られたのですが、近年その数は減少し、かわりに就職戦線に立つ4年生の不調が多くなってきました。これは、最近の学生にとって、大学は単なる通過点でしかなく、入学してもいずれ就職という大きな壁が立ちはだかると考えるられようになったためといわれます。彼らのさしあたっての目標が入学から就職に移ったためです。 さらに五月病の新しい現象として注目すべきは、新入女性社員の急増があげられます。大阪府立こころの健康総合センターの調べでは、入社後に調子を崩して相談に訪れる女性は6月後半から急に目立つのが特徴的で、10年前に比べると約3倍にのぼるそうです。訴えのほとんどが「過食症」からくる体重増加の悩みといいます。女性に多いこの現象は、雇用機会均等法を背景に、本人の気負いと周囲からの期待が重なることが主な原因と考えられ、これも時代を反映した一面でしょう。 既成の軌道から離れて、自らの目標を見つけるまでの一時期に生じる五月病は、見方を変えると一種の自然休暇なのかも知れません。自己をあらためて見直し、現実の社会で自立していくための点検整備期間と考えると、貴重な時間のひとつともいえます。
「仙台経済界」2000年 5-6 月号掲載
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