うつ病の治療薬、いわゆる「抗うつ薬」は今や三世代目に入っています。
一九五七年、うつ病治療に有効な薬剤が発見されて以来、抗うつ薬の開発に口火が切られました。初期の群は強力であると同時にだるさ、口渇、便秘などを伴うもので、第一世代と呼ばれます。国内では発見から二年遅れて発売されました。その後研究が続けられ、より副作用の少ない第二世代が生まれました。それまでの余計な作用は緩和されたものの、その分薬効も弱くなっています。そして最新の第三世代の抗うつ薬が登場します。脳内の情報はいくつかの神経伝達物質を介して運ばれることが知られており、この世代はそれらの必要な種類だけを活性化します。第一世代に引けを取らない効力を持ち、安全性も高いのが特徴です。
実際の診療場面では三群の世代を年齢、重症度、症状の種類によって使い分けます。高齢者には身体に負担の少ないよう、穏やかに働く第二世代を、重症であれば副作用を犠牲にしても効果の鋭い第一世代を優先させることもあります。
最近はマスコミによる広告や体験談を通じて精神科が身近に感じられてきたようです。以前に比べると軽症のうちに受診する患者さんが増えています。また脳内研究が進み、科学的な根拠に基づく医療が主流になったことも相俟って、抗うつ薬では第三世代が活躍中です。その中には人によって軽い吐き気を伴う薬剤があります。この現象は薬効成分を受け取る部位が消化管に多いため、まず胃が刺激されて生じる一時的な反応です。数日でおさまり、長引くことはありません。
医療機関から出されるこうした薬剤は、ほとんどの場合、医師または薬剤師が患者さんに説明するようになりました。一般に精神科関係の薬剤となると、せっかくの効能より副作用の方に目が行きがちです。説明する側はなるべく安心して服薬してもらえるよう心がけています。
先日、私自身の世代をあらためて感じさせられたことがありました。
十代後半の患者さんに抗うつ薬を処方する時です。いつも通りの注意点に触れたつもりでした。
「最初はむかつきが出るかもしれないけど、何日かするとおさまりますよ」
一瞬の戸惑いを見せて、彼女は真面目な表情になりました。
「むかつきって頭ですか、おなかですか?」
「仙台経済界」2004年 1-2月号掲載