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  • 執筆者の写真斎藤 徹

エコノミークラス症候群 (「仙台経済界」2005年 1-2月号掲載)

 「エコノミークラス症候群」とは、長時間同じ姿勢をとることにより血液に固まりができ、それが肺の血管に詰まって呼吸困難、時には死に至る病態を指します。最初の報告例が航空機のエコノミークラスの乗客であったことからこの名称が付けられました。

 航空機内は人体にとって好ましい条件とはいえません。湿度が15%程度で、これは砂漠よりも乾燥している状態です。そこでは1時間に80ミリリットル、12時間の飛行で1リットル近くの水分が体内から奪われます。体内の水分が少なくなると血液の粘度が増し、「血栓」という固まりができやすくなります。

 さらに飛行中は狭い座席に座り続けていなければならず、この姿勢は足の付け根や膝裏を圧迫させ、血液の渋滞を招き、いっそう血栓ができやすい状況を作ります。着陸後、血栓のできた人がすぐに動き出すと、その固まりは血流の勢いで運ばれ、血管が密集している肺で詰まってしまうのです。

 リスクの高い条件としては、40才以上、肥満、妊娠・出産や手術直後などがあげられますが、それ以外でもスポーツ選手のように激しいトレーニングをしている人たちも油断できません。血管の内側が傷んでいることがあり、そこから血栓ができやすいからです。

 予防としては「水分補給」と「運動」がポイントとなります。搭乗前の軽い食事や座席についてからの飲み物は水分維持に大切です。ただし、アルコールやカフェインは利尿作用を促し、脱水を引き起こすので取り過ぎは禁物です。また、体を締め付けない余裕のある服装にし、定期的に手足を動かしたり関節の内側を揉んだりトイレや洗面所に立つような工夫も効果があります。

 ところで、新潟県中越地震で、車の中で避難生活をしていた被災者の3割に血栓が発見され、エコノミークラス症候群の前段階であることが判明しました。飲料水が行き渡らずトイレも整備されないまま、窮屈な生活を強いられた状況によるものと考えられます。

 エコノミークラス症候群はその響きから、航空機のエコノミークラスでしか起こらないとの印象を与えかねません。しかしその後の調査では、バス、列車、船などの乗客にも発症が認められ、名称の見直しが提言されていたところでした。

 空の上で見つけられたこのトラブルは、今や地上、海上で広く注意が呼びかけられています。


「仙台経済界」2005年 1-2月号掲載


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