アダルト・チルドレン (「仙台経済界」1999年 5-6月号掲載)
- 斎藤 徹
- 2020年8月15日
- 読了時間: 2分
心に関する出版物が増えています。少し前までは「・・・症候群」という言葉があちこちで聞かれました。ところが最近では「アダルト・チルドレン」に変わったようです。 この「アダルト・チルドレン」とは本来、親のアルコール依存により家庭が崩壊されて育ったため、後にさまざまな問題を抱える人達のことをいいます。アメリカのジャネット・ウォティッツという教育学者、1990年に発表した「アダルト・チルドレン オブ アルコーリクス(アルコール依存者のもとで大人になった子供達)」と題する本が、その名の出どころです。 ウォッティッツの専門は「子供の自尊心」でしたが、夫がアルコール依存で、家族のための治療組織(自助グループ)に参加するようになりました。そこで得られた体験を1冊の本にしたわけです。アルコール依存者が急増しているアメリカで、家族側が積極的にアルコール問題に取り組み、それを新たな角度から捉えなおしたという点で彼女の考えは高く評価され、一大ブームを巻き起こしました。そして日本にも紹介され、やはり大きな反響を呼んでいます。 現在「アダルト・チルドレン」は少し意味が拡大され、本来のアルコールだけでなくギャンブル依存症、過食症や拒食症といった摂食障害の親のもとで育った人達も含むことになりました。こうした人達は、両親の愛情が十分注がれない、いわゆる「機能不全」と呼ばれる家庭で育ったため、「愛される」ことへの安心感が得られず、周囲の愛情をことさら取り込もうとするあまり、生き生きとした人生を送れなくなってしまうそうです。親の影響が子供に及び、子供自身が依存症や摂食障害などをきたすこともあるといいます。 ところでこの言葉は、自らがそのように自覚した人達のための呼び名で、医学的に認められた病名ではありません。ここに注意を払わねばならない点が潜んでいます。一時、この言葉を使って一方的に親を非難し、自分自身になすべき本来の治療に困難をきたした例が増えたからです。 一般にこころに関する本を見ると、そこに書かれている内容のどこかが当てはまることが少なくありません。特に成長環境の問題がテーマの場合は、さまざまな要素が絡んでくるため、どんな人も多少は重なる部分が出てきます。 ただし、こうした情報は多くの中からある一つの傾向を示すのであり、すべてを決定するものではないのです。大切なことは、行き交う情報に左右されずに、自分自身の問題を見失わないことだといえましょう。
「仙台経済界」1999年 5-6月号掲載
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