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なんでもあり (「仙台経済界」1998年 7-8月号掲載)

  • 執筆者の写真: 斎藤 徹
    斎藤 徹
  • 2020年8月15日
  • 読了時間: 2分

この4月、勤務先の病院にあった協同作業所が移転した。 ここでいう作業所というのは、精神科を退院した患者さんが、家庭なり仕事なり、もとの社会生活に再び立ち戻れるまでの間、実生活に適応するための訓練、いわゆる心のリハビリテーションの場をいう。具体的には、軽い手仕事や遠足などのレクリエーションを通して仲間との交流をはかりながら、社会への再出発に向けて気持ちを整えるのである。私たちがかかわっているのは、患者さんの家族の会が運営するもので、これまで院内の一角を借りていたのだが、偶然に場所を提供してくださる方が表れ、独立することになった。 さっそく今年に入り、新しい作業所の準備委員会が組織された。メンバーは家族会をはじめ、新作業所の改装を引き受けてくださった建設会社・市内にある他の作業所そして病院から各数名ずつ計10名弱である。毎週1回集まり、各自それぞれの立場から思いのまま意見を述べ合うことにした。  このようなめったにない機会をぜひとも有意義なものにしたいというのがメンバーの総意である。そこで、精神科という一般の偏見にとらわれることなく、患者さん達ができるだけ自然に社会へ溶け込んでいける方法を探すことになった。そのためには地域の人達が気軽に出入りできるメニューを組み込まねばならない。花屋にしようか、それとも石鹸作り、いや、陶芸教室は…と話はふくらんだ。 家族の方々からは、癒しが必要な点では自分たちも同じだとの指摘があった。家庭内のトラブルを誰にも相談できずに抱え込み、途方に暮れては孤独感に陥ってしまうことが多いという。患者さんだけでなく、その家族もまた行き場を求めている。 こうして結局は、患者さん・家族・地域の人達が気軽に立ち寄れる、「なんでもあり」の交流の場を目指すことになった。名称も、さまざまな人の色が集まって、心地よい1枚の絵となるように、スペイン語の「ぱれった」に決まり、ようやく無事にすべり出したところである。夢は大きいものの、これから具体的にどう実現していくか、課題は多い。とりあえず今のところは、本来の作業としての手芸や陶芸サークルのほか、お客様には1杯100円のおいしいコーヒーも用意している。 私は、この会を通していろいろな人と出会うことができた。こうして書いている原稿も、その人脈の流れから紹介され、お引き受けした次第である。この作業所が、いずれは皆が集う楽しい憩いの場となり、患者さん達が社会の中で生き生きと暮らせる日に向かって発展していくことを願っている。「仙台経済界」


1998年 7-8月号掲載

 
 
 

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