うつ病マニュアル (「仙台経済界」2004年 5-6月号掲載)
- 斎藤 徹
- 2020年9月5日
- 読了時間: 2分
現在、15人にひとりがうつ状態を経験するといわれます。その最も痛ましい結末である自殺の件数は年間3万を超え、深刻な社会問題となっています。
厚生労働省は去る1月、都道府県や保健所職員向けの「うつ対応マニュアル」を作成しました。周囲の人が見逃さないうつ病の兆候をまとめ、自殺防止に役立てるためです。
日本医師会も3月、「自殺予防マニュアル」を会員および医学部卒業生に配布したところです。推定では医師への受診者のおよそ3割がうつ病で、初めから精神科を訪れるうつ病の人は全体の約1割と報告されています。そこで一般科の医師にもうつ病の認識を深め、必要時には専門医への連携をスムーズにする必要が注目されたのです。
うつ病発見のポイントはいずれのマニュアルにも共通して、「抑うつ気分」、「興味減退」、「身体不調」があげられています。
「抑うつ気分」とは、気持ちが沈み憂うつで悲しい、何の希望も見出せないといった感情です。以前に比べて表情が暗い、元気がないなどの雰囲気から気づかれることが多いようです。
「興味減退」があると、それまで好きでしていた物事に面白さが失せ、趣味で続けていた活動に意欲が湧かなくなります。生活の中に何らかの楽しみが維持できているか否かが目安です。
「身体不調」においては訴えが多彩で、不眠から食欲低下、疲れ易さの他、さまざまな症状が聞かれます。うつ病の中には抑うつ気分や興味減退が目立たず、専ら身体不調が前面に出るタイプがあり、こうしたタイプの患者さんは各種医療機関を転々として長期戦になることが少なくありません。
今回の一連のマニュアルが防ごうとしている自殺は、うつ状態のピークではなく、改善しかけの時期に多い点が重要でしょう。経過の極期では死への願望があっても実際の行為に至るエネルギーすら枯渇しているためと考えられます。生きることへの虚しさを漏らしたり、遺書めいた文章を書くことは危険信号で、そのような場合は聞き役に努め、専門医への相談を急がねばなりません。
増え続ける悲惨な事態に歯止めをかけようと、うつ病への理解が広く呼びかけられ始めました。精神科医療の敷居がさらに低くなろうとしています。
「仙台経済界」2004年 5-6月号掲載

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