top of page

2002年W杯に向けて (「仙台経済界」2002年 5-6月号掲載)

  • 執筆者の写真: 斎藤 徹
    斎藤 徹
  • 2020年8月15日
  • 読了時間: 2分

 サッカーW杯が目前に迫りました。アジアで初めての大会だけに、その盛り上がりようには誰をも夢中にさせる勢いが感じられます。  日本でサッカーが本格的に流行り出したのは10年前頃からです。91年~93年まで、私はパリに留学していましたが、この間にJリーグができ、帰国した時にはプロ野球を凌ぐほどの人気を得ていたことを記憶しています。  サッカーはフランスでは国民的スポーツです。大きな試合のたびに至るところで応援合戦が繰り広げられ、特にパリを本拠地とするパリ・サンジェルマンの試合がある日などは、時間を見て外出しないと思いがけない混雑に巻き込まれかねません。  ある日、地下鉄で鉢合わせになったことがありました。乗っていた電車がスタジアムのあるブローニュ方面の駅に入ると、地響きのような音が迫り、興奮に沸き立った集団がなだれ込んできたのです。たちまち中は叫びや歌で騒然となり、ワインの臭いが充満しました。サンジェルマンが勝ったようです。彼らの熱狂ぶりが激しいだけに、単に通りすがりの乗客たちは、そこに素面で居合せていることが場違いに感じるほどでした。  夏のヴァカンスになるとサッカー熱はいよいよピークに達します。カンヌやニースなど地中海の街では、ラテンの血が濃いせいか激しさは増し、缶や壜を叩き回り、それでも足りないと車のクラクションを鳴らして歓喜するといった情熱です。  このサッカー熱がとうとうアジアに上陸し、今やW杯を迎えようとしています。  ところで、サッカーでも野球でも、人々が一丸となって夢中になる根底には、一見つながりのないようなものの間に関係を見出す人間本来の心の働きがあるそうです。夜空に散らばる星にさまざまな形を連想して星座を創造したように、私たちには得ている知識の断片を積極的につなげてゆく能力があります。これはもっと身近には、自己と他人の間にも作用する現象であり、相手の悲しみを自分の悲しみに、自分の楽しみを相手の楽しみにするという、目に見えない心の読み取りの中に見ることができます。  こうした、いろいろなものの間に関連性を持たせる感覚が何かで他人と共有されると、そこから一体感が生まれ、集団でひとつのものにはまることがあるというのです。  アジアで初めて開催されるW杯が、サッカーを通し世界の人々にさまざまな感動を共有させ、住みよい時代の先駆けとなることを期待します。


「仙台経済界」2002年 5-6月号掲載

 
 
 

最新記事

すべて表示
記憶の中で[青の時](The Excellent Saluki 2022 (Vol.13) 東京南サルーキズファミリークラブ・東京北サルーキクラブ合同会報掲載文に加筆)

リリーと散歩に河原へ出た。初夏の夕暮れ時、空はまだ高く、木々の緑からは鳥のさえずりが聞こえていた。街の中を蛇行する川に沿って、河原は緩やかに続いている。広い流れがさざめく向こう岸は地層面があらわな切り立った崖になっており、その上に並ぶ家々は精密な模型のようだ。中にはあかりを...

 
 
 
リリー(仙台市医師会報 2020年3月号 No.667 掲載)

私はリリーの頭部を両手で包み、ひたすら頬ずりしていた。鼻筋から後頭部へ、耳から口元へと、少しでも不安を取り除いてやりたい一心で。向かい合ってリリーを支えている看護婦さんも、横で注射をしている獣医さんの存在も気にならない。胸の芯からこみ上げてくるおえつを抑えるので精一杯だ。...

 
 
Frame of mind 2 体内時計(シリウス・一番町[シリウスプレス]5th Anniversary 掲載)

私たちは日中の活動と夜の睡眠を繰り返しながら毎日を送っています。この活動と睡眠のリズムは両目の奥に位置する視交叉上核(しこうさじょうかく)という神経細胞群で作られます。この細胞群がいわゆる体内時計です。 体内時計は光の受容器である目とつながっており、太陽光を浴びた時刻に応じ...

 
 

Comentarios


Ya no es posible comentar esta entrada. Contacta al propietario del sitio para obtener más información.
記事: Blog2_Post

宮城県仙台市青葉区一番町2丁目4番19号 シリウス・一番町3F(地下鉄東西線青葉通一番町駅直結)

©2020 by 一番町メンタルクリニック。Wix.com で作成されました。

bottom of page