斎藤 徹
新型インフルエンザ (「仙台経済界」2004年 3-4月号掲載)
インフルエンザが流行っています。
一般の「かぜ」が細菌やウィルスを原因に鼻や呼吸器の症状を主とするのに対して、特定のウィルスによるインフルエンザは三十八度を越える高熱、関節痛や倦怠感などの全身症状を呈し、最悪の場合は死に至ることも稀ではありません。
インフルエンザウィルスは直径千分の一硺程度の球状で、内側に八本の遺伝子、表面に「ヘマグルチニン(H)」と「ノイラミニダーゼ(N)」の二種類の蛋白質を突起状に持っています。蛋白質Hが十五番、Nが九番まで知られており、それらの組み合わせは百三十五通りに及びます。
このウィルスは通常、型に応じて限られた動物にしか感染しません。ウィルスとそれが入り込める動物の細胞には相性があり、種の違いが壁となっているのです。人間に感染するのはA型とB型で、現在流行しているのはAのH1N1型およびH3N2型と伝えられていますが、遺伝子の変異でこの組み合わせが変わると、それまでの免疫やワクチンは効かず、新型として猛威を振るいます。
種の壁を超えて人間への感染力を持つに至る過程は幾つか考えられてきました。
ひとつは鳥仲介説で、発端はカモといわれます。カモはあらゆる型のインフルエンザウィルスに感染しても発症せず、ウィルスの運び役となって鶏やアヒルなどに移します。その途中でウィルスが突然変異を起こし人間へ感染するのです。
さらにブタを介する経路も想定されます。ブタの細胞は人間と鳥、いずれの型のウィルスとも相性がよいため両方に感染します。その体内で二つの型の遺伝子が交じり合い、新しい型が生まれるのです。
現在、アジアに広がりつつある「鳥インフルエンザ」は、日本でも一月十二日に山口県の養鶏場で確認され、農水省は当該農場の養鶏全羽の処分を行い、厚生労働省は出荷鶏卵の自主回収令を出しました。インフルエンザウィルスは七十五度、一分の加熱で死滅するため、肉や卵からの感染はないというものの、万が一の対策も含まれています。
警戒を怠れないのは、鳥インフルエンザウィルスが変異し新たな人間型になることです。新型ウィルスに対して我々は免疫がないため、世界規模の大流行につながる可能性があります。
ただ、過度な恐れや侮りに陥らないよう、日々の情報を正確に見つめていくことも必要です。
「仙台経済界」2004年 3-4月号掲載
